期待を超える創造に挑む。
そのためには、情熱を持ってチャレンジし続けることはもちろん、異分野から学ぶ姿勢も欠かせません。
「匠×TAKUMI Cross Talk」は、異なる業界や職種で活躍する「匠」の両者が語り合うことで新たな発見や発想、気づきを得る企画です。
今回は『BEST HIT CHRONICLE1/1 カップヌードル』の発売にあたってご協力いただいた日清食品マーケティング部の白澤勉氏をお招きし、BANDAI SPIRITS ホビー事業部の企画担当 寺島塁とカップヌードルプラモデルの開発経緯や互いの仕事への取り組み方などを語り合いました。
二人の「匠」が考える、モノづくりのアイデア、そして哲学とは――。
寺島 塁 Rui Terashima
株式会社バンダイスピリッツ ホビー事業部 ニューホビーチーム
2016年入社。
プラモデルの営業・プロモーションを経て入社3年目より商品企画を担当。
「世の中にない、全く新しいプラモデルを作る」というミッションの元、日々チャレンジ的な商品開発を遂行。
これまでにニッパーなどの工具シリーズや、『BEST HIT CHRONICLE』を担当。
趣味はフットサルとテレビゲーム。
白澤 勉 Tsutomu Shirasawa
日清食品株式会社 マーケティング部 第一グループ ブランドマネージャー
1997年入社。
宣伝部、経営戦略室などを経て現在はマーケティング部第一グループにて「カップヌードル」のブランドマネージャーを務める。
日課は自社商品の試食、毎朝5kmのランニング。
プラモデルの開発過程で気づいた 「カップヌードル」の“ユーザー視点”
「社内競争に勝てないものが、 市場の競争に勝てるわけがない。」という考え方
寺島
9月18日は「カップヌードル」の49歳の誕生日ですね、おめでとうございます!
半世紀もの間ブランドを維持するのは非常に大変であり、だからこそブランディングを担っている白澤さんの責任の大きさは計り知れません。ブランドマネージャー制というのは当社にはない制度なので、改めてどういった役割なのか教えていただけますか。
白澤
弊社にはいくつもブランドがあり、ブランドごとに縦割りのグループで管理しています。ブランドマネージャーは、担当するブランドカンパニーの社長としての権限と責任を持ち、経営的な視点を持ちながら進めていきます。弊社には「社内競争に勝てないものが、市場の競争に勝てるわけがない。」といった考えがあるので、その競争構造の中で担当するブランドを磨き、強化していくことが私の使命なんです。
寺島
そのような風土があるからこそ、常に業界のトップを走り続けているのですね。
白澤
プラモデルの新製品における開発のプロセスはどうですか?
寺島
プラモデルの題材を決めるところからスタートし、プレゼンを経てメディア展開などを含めて話し合いをしていきます。商品開発は主に静岡にある工場のバンダイホビーセンターで行っています。
プラモデルはパーツから組み立てていくものですが、まずは完成イメージから作り上げていくのがポイントで、『BEST HIT CHRONICLE 1/1 カップヌードル』だったら外観イメージの設計から始まりました。その後、プラモデルとしてのパーツ分割の設計に移って、ここでパーツの数や組み立て工程が決まります。ここから金型を掘って成形して生産していくという流れですね。開発期間は約10カ月ほどでしょうか。
私自身はかなり頻繁にバンダイホビーセンターに足を運んで、現物を見ながら作り上げることを意識していました。
日清食品さんの新商品開発のプロセスはどのようなものですか。
白澤
弊社では日ごろの情報収集で得たアイデアやさまざまなデータを基に商品開発にとりかかります。研究所の開発担当者と試作品をやり取りしながら、発売5カ月前に最終デザイン、スペックを決定し、発売が決まります。その後は、商談やプロモーションの準備、生産の準備を整えて発売日を迎えるという流れです。開発期間は同じくらいですね。
ひとつの商品を発売するにあたっては、国内にある複数の工場で一気に生産しますから、原材料や資材が大量に必要ですし、各部署との調整も多岐にわたります。
1つのブランドが長く愛されるために、大切にすべきこととは
寺島
一つのブランドが長く愛されるために、やるべきことや大切にすべきことは何でしょうか。
白澤
“変えるところ”と“変えないところ”を決めておくことでしょうか。世の中の商品で例えると、家電のように技術革新されていくことが良しとされるものがある一方、食については、家庭の味や思い出とともに記憶に残っている味など、人間の本質的な部分として絶対に守っていかなくてはいけないものがあると思います。
「カップヌードル」に関しては、ユーザーが期待している味から逸れていくような変え方は絶対にしませんし、高めていく必要がある場合、ユーザーが気づかないように変えています。
寺島
昔から変わらない懐かしい味だと思っていても、実はかなり違っているなんていうこともあるんですか?
白澤
商品によってはそういうものもあります。ほんの少しずつ変化させていくので、日々食べているときには気づかなくて、食べ比べると数年前のものとの違いに気づくといった商品もあります。ロングセラーの商品は、磨き続けないと絶対飽きられてしまうので、安心感、新しさ、懐かしさ、カッコよさ、など様々な側面を持たせようと常に試行錯誤しています。
「カップヌードル」のような定番商品であっても、時代に合わせて常に高みを目指そうと頑張っています。
寺島
1つのプロダクトで長く、しかも各年代のユーザーに愛されるというのは本当にすごいことだと思います。
白澤
サスティナブルなブランドであるためにも積極的に変化を続けていて、例えば容器は2008年に発泡スチロール製から紙製の「ECOカップ」に変更しました。ただ、それまで親しまれた発泡スチロール製カップの手触りは残したい。だから発泡スチロールのようなザラッとしたコーディングをあえて施しました。また、紙製のカップは口に触れる部分がロールしているのが普通ですが、わざと角を立てて四角くし、口がカップに触れた時の感覚も変わらないようにしています。一食百数十円の「カップヌードル」にそこまでするか?と驚かれますし、実際コストも手間もかかるのですが、こうした無駄ともいえるほどの細部へのこだわりこそが日清食品らしさであり、企業文化なんです。